「鸚鵡を飼う女」(横溝正史)

鍵を握る鸚鵡の言葉

「鸚鵡を飼う女」(横溝正史)
(「双仮面」)角川文庫

春の夜更け、キリシタン坂を
歩いていた三津木俊助は、
死体の載った俥に出くわす。
その俥の横付けされていた
屋敷に踏み込むと、
そこにも死体が。
そしてその部屋には
大小様々の博多人形があり、
中国語の言葉を話す鸚鵡がいた…。

車ではなく俥(人力車)です。
まだまだ人力車が現役だった時代です。
昭和12年発表の、
由利・三津木コンビが
事件を解決する短篇作品です。

本作品の読みどころ①
鍵を握る鸚鵡の言葉

言葉を話すという性質上、
鸚鵡はキーアイテム的存在として、
小説上に登場する機会の多い
鳥なのでしょう。
広く知られているところでは
「ビルマの竪琴」での
水島上等兵と小隊長との
メッセンジャー役、
ミステリーでは佐藤春夫が
「オカアサン」で謎解きの素材として
登場させています。
横溝も他に「物言わぬ鸚鵡の話」で
使っています。
本作品でも、被害者の女が飼っていた
鸚鵡の話す言葉が
事件の鍵を握っているのです。

本作品の読みどころ②
鸚鵡に込められた犯人の意図

すべてが解決されたとき、
鸚鵡に込められた犯人の意図が
明らかになります。
「自己弁護」と「残忍な快感」という
犯罪心理が巧妙です。

本作品の読みどころ③
ワトソン役に徹する三津木

事件を見事に解決するのは
由利麟太郎です。
三津木はワトソン役に回っています。
事件を発見するのは三津木ですが、
このとき重要参考人を見逃すとともに、
実は一杯食わされています。
そして事件はすぐ解決すると
高をくくってしまいます。
さらには珍しいことに由利から
「君も新聞記者なら、
もっといろいろなことに
注意していなければいけないね」と
たしなめられる一幕まであります。

面白いことに、由利が登場しない
「三津木・等々力警部コンビ」では、
三津木は明晰な頭脳を駆使して
事件を解決に導く
(「猫と蝋人形」「白蠟少年」等)のですが、
由利と一緒のときはなぜか頭の回転が
鈍くなってしまうのでしょうか。

トリック的なものがなく、
読み手が謎解きに参加する要素も
少ない作品なのですが、
こうした読みどころに加え、
冤罪を受けた弟を救い出す
証拠を探すという
情緒たっぷりの筋書きなど、
短篇ながらも
味わい深い作品となっています。

金田一耕助シリーズが
すべて新角川文庫で
復刊しているのですが、
由利・三津木ものについては
角川文庫は
今ひとつ熱心ではありません。
現在読むのであれば
柏書房刊「由利・三津木探偵小説集成2」
もしくは電子書籍しかないのが
惜しまれます。

(2019.5.26)

sujuによるPixabayからの画像

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